生体内のほぼ全てのタンパク質に生じるリン酸化やアセチル化などの翻訳後修飾は、細胞内タンパク質の機能を時空間的に変化させることで、様々な生体機能の発現や調節に関わっています。疾患に関わる翻訳後修飾を探索するためには、生体内にごくわずかに存在するこれらの修飾を含むペプチドを濃縮し、質量分析計を用いて同定する、高度な分析技術が必要とされます。私たちの研究室では、タンパク質間相互作用や細胞内シグナル伝達、タンパク質細胞内局在などに関わる、リン酸化・アセチル化・メチル化・ユビキチン化・ミリストイル化などの翻訳後修飾の解析技術を用いて、がんをはじめとする様々な疾患の発症や、薬剤耐性発現・悪性化などに関わる修飾を探索し、培養細胞株を用いた機能解析を進めています。さらに最終的には、患者検体を用いたバイオマーカーとしての有用性検証を行うことを目指しています。
一方で、多数のタンパク質の集合体であるタンパク質複合体は、翻訳後修飾を介した隣接サブユニット間での相互作用によるダイナミックな機能調節を受けていると考えられます。そこで私たちの研究室では、がんをはじめとする様々な疾患との関わりが報告されている、26Sプロテアソームやがん抑制因子複合体などのタンパク質複合体を用いた翻訳後修飾の解析も行っています。
タンパク質が生体内で機能を発現する際には、実際には単独ではなく、タンパク質をはじめとする他の様々な生体分子との相互作用が必要となることが多いといわれています。バイオマーカーや既知の疾患関連タンパク質の機能を、分子間相互作用のネットワークの文脈の中で見直すことにより、これまで病態機構の解明が進んでいなかった様々な疾患に関する基礎研究が大きく進展することが期待されます。私たちの研究室では、こうしたタンパク質間相互作用を明らかにするために、血液や培養細胞抽出液を用いて、免疫沈降法や質量分析を基盤とした解析技術の確立と実用化を目指した研究を進めています。将来的には、より診断精度の高いバイオマーカーや、マルチバイオマーカーの開発研究に発展させていきたいと考えています。