臨床⼯学技⼠は、病院内で使われる⼈の呼吸・循環・代謝に関わる医療機器を、医師の監督・指⽰のもとに操作して治療に参加し、また、それら医療機器の保守点検・管理を⾏います。したがって、医学と⼯学の両⾯を兼ね備えた医療機器のスペシャリストです。
臨床⼯学技⼠は、医療技術の進歩による医療機器の⾼度化に伴い1987年に制定された⽐較的新しい国家資格で、現代の医療に必要不可⽋な医療機器の適正使⽤と安全確保の担い⼿として医療機器を介して多くの患者さんの命を⽀えています。
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⼈⼯⼼肺業務
⼼臓⼿術を⾏う際に⼼臓や肺に代わる働きをする「⼈⼯⼼肺装置」を操作して、患者さんの⾎液循環やガス交換を担います。
また、人工心肺装置以外にも手術中に使用される多くの医療機器の操作や保守点検などを行います。 -
⾎液浄化業務
体内に溜まった⽼廃物などを排泄または代謝する機能が働かなくなった場合に、⾎液を介してその機能を代⾏する治療で、⾎液透析療法、⾎漿(けっしょう)交換療法、⾎液吸着法などがあります。
これらの治療で使⽤する「⾎液浄化装置」の保守点検の他、治療中に医療機器の操作を行って患者さんの治療に関わります。 -
呼吸治療業務
肺の機能が低下し、呼吸が⼗分にできない患者さんの呼吸を代⾏するために「⼈⼯呼吸器」という装置が装着されます。
臨床⼯学技⼠は⼈⼯呼吸器が稼働している集中治療室や病室などへ⾏き、装置を安全に使⽤しているか、装置に異常がないかの確認や、治療中の患者さんの状態や治療⽅針を把握します。 -
⼿術室業務
⼿術室には⿇酔器や電気メスの他、さまざまな医療機器が数多く存在します。
⼿術の内容によって使⽤される機器は多種多様であり、⼿術が円滑・安全に⾏われるように医療機器の操作や保守点検、管理などを行う他、医療機器を用いて薬剤の投与や調節を行います。 -
集中治療業務
⼿術後や重篤な状態の患者さんに対して「⼈⼯呼吸器」や「⾎液浄化装置」、「補助循環装置」などの⽣命維持管理装置と呼ばれる医療機器の操作や管理を⾏います。
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⼼・⾎管カテーテル業務
心臓病の診断をするための検査や治療で使用する医療機器の操作、保守点検、また、検査や治療中の記録を行うためのコンピュータを操作します。
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ペースメーカ、植込み型除細動器業務
不整脈の治療では、「除細動器」という機器を用いて電気の力で乱れた心臓のリズムを規則正しい動きに戻したり、「ペースメーカ」や「植込み型除細動器」といった機器を体内に植込む手術を行うことがあります。臨床工学技士はこれらの医療 機器の操作や保守点検・管理を行い、外来診察時には 埋め込まれた装置が適正に動作するか、医師とともに確認します。
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医療機器管理業務
病院内のさまざまな分野で使用する医療機器を安全に、そして適切な運用ができるように医療機器の保守点検・管理を行います。また、他の医療スタッフへ医療機器を安全に使用するための、安全教育を行います。医療機器の保守点検・管理は臨床工学技士にすべての責任が委ねられています。
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⾼気圧酸素治療業務
高い気圧の中で酸素を吸うことで血液中に多くの酸素を取り込み、病気の改善を図る高気圧酸素療法では、「高気圧酸素治療装置」の操作や 保守点検・管理を行います。
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内視鏡業務
内視鏡検査や治療で用いる医療機器の保守点検・管理、内視鏡検査の介助を行います。
医療機関
⼤学病院、国⽴病院、地⽅病院、⺠間病院、透析クリニックなどで医療機器の操作や保守点検・管理業務を⾏います。
企業
医療機器全般を扱う商社や医療機器メーカーでの業務は、営業または医療機器の設置や保守点検・修理などの技術サポート、企画・開発、研究など幅広くあります。また、医療現場で働くスタッフへの製品説明、医療機器の取扱いに対する説明⽂書の作成や指導を⾏います。
教育研究機関
⼤学卒業後、⼤学院へ進学し、臨床⼯学技⼠養成施設で教員として教育に携わる、または研究職として企業の開発部⾨への就職を⽬指すことができます。
公共機関
独⽴⾏政法⼈医薬品医療機器総合機構(PMDA)で技術専⾨職職員として医療機器の承認審査関連業務や医療機器の安全情報に関する調査・分析・評価などの業務を⾏います。ただし、業務内容に⾒合った知識が必要とされるため、ある程度の実務経験と語学⼒が必要です。
海外での活動
独⽴⾏政法⼈国際協⼒機構(JICA)に応募し、発展途上国などにおいて、現地で医療機器の操作や保守点検・修理を⾏いながら現地スタッフに技術指導を⾏います。
また臨床⼯学技⼠が中⼼となった「⽇本臨床⼯学技⼠会」、「臨床⼯学国際推進財団」が公的機関と協⼒し、海外での臨床⼯学を学問の⾯からも⽀援しています。ただし、活動内容に⾒合った技術や知識が必要とされるため、ある程度の実務経験と語学⼒が必要です。
災害時・災害対策
地域の⾃然災害時には、災害対策スタッフとして、医学と⼯学の知識を⽣かして参加します。その結果、地域の災害対策機関に対しても積極的に協⼒します。具体的には、被災現場での命のサポート、医療施設の復旧、救援物資の整理などを⾏っています。
日勤
始業
⾎液透析の準備
血液透析を行うための装置の立ち上げと透析装置や関連装置の動作確認、そして使用する回路を組み、治療開始に備えます。
また、⼀⽇の業務を円滑に⾏えるようにミーティングを⾏います。
⾎液透析開始
⼆⼈⼀組で⾎液透析を開始します。
患者さんに針を刺し、⾎液透析装置を操作し患者さんに治療を⾏います。
患者さんとコミュニケーション
⾎液透析が安全に開始されていることを確認すると共に、患者さんから前回の透析後から今⽇までの⽣活状況を聞き出します。
休憩
⾎液透析回収
⾎液透析の終了及び回収・患者情報の処理等を⾏います。 ⼀番注意⼒と集中⼒が必要な時間帯です。
清掃と翌⽇の準備
透析終了後より透析装置の洗浄、薬液充填を⾏います。
透析室の掃除、ベッドメイク、ごみ捨て、翌⽇の⾎液透析の準備などを⾏います。
⾎液透析装置の⽇常メンテナンス
医療機器の管理も仕事の⼀つです。⽇頃から⾎液透析装置が安全に使⽤できるように、メンテナンスを実施します。
終業
臨床⼯学技⼠の⼈数は他の医療従事者に⽐べて少なく、約4万⼈です。現在、⾎液透析の対象となる患者さんは約35万⼈、またその他の業務を合わせると、臨床⼯学技⼠1⼈が対応する患者さんは10⼈程度となっています。理想では臨床⼯学技⼠1⼈が対応する患者さんは5⼈程度と⾔われているので、まだまだ臨床⼯学技⼠の数が⾜りていないことがわかります。
2016年度診療報酬改定の特定集中治療室管理科1に関する施設基準では、「専任の臨床⼯学技⼠が、常時、院内に勤務していること」と明記されたことで、集中治療室における臨床⼯学技⼠の必要性が⾼まっています。また、集中治療領域の他にも、医療機器安全管理やカテーテル、内視鏡などのさまざまな領域においても常勤の臨床⼯学技⼠の配置が義務付けられたことで、活躍の場が広がっています。臨床工学技士の主な就職先は、病院やクリニック、民間企業、教育研究機関、公共機関と多岐にわたっています。
病院やクリニックに就職した場合、新卒で基本給⽉額18〜22万円です。勤務場所や施設によっては、基本給に地域⼿当や資格⼿当、住宅⼿当、通勤⼿当、夜勤⼿当、残業⼿当などが加算されます。国公⽴病院の場合は、公務員となるため、医療職の給与区分に準じた給与となります。また、⺠間企業に就職した場合は、新卒でおよそ⽉額20〜25万円です。施設や企業により異なりますが、専⾨学校や短期⼤学、⼤学などの学歴によって、5千円〜1万円程度の差があるようです。
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臨床⼯学技⼠に必要とされる適性
医療機器のスペシャリストである臨床⼯学技⼠は、医療機器を介して患者さんの命を⽀えるという⾮常に重要な使命を担っており、業務には強い倫理観と責任感が求められます。その責務を果たすためには、⽇々進化する医療機器に対する⼯学的知識や技術、さまざまな疾患に対する医学的知識を⾝に付ける必要があり、そのためには常に学び続ける姿勢、そしてどんな時も慌てず常に冷静に現場を⾒ることができる⾃⼰管理能⼒が重要となります。さらに、チーム医療の⼀員として他職種と連携をとって治療を進めるためのコミュニケーション能⼒、そして常に患者さんの気持ちに寄り添うことのできる⼼が求められます。